The Hermit | |
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木畑 多朗は探索者に潜入する敵対者である。 有田達は知らない事だが、彼と御数木梓沙は同郷の幼馴染であり、彼女が入念な策をもって探索者たちを罠にはめ、とある儀式のために利用しようとしていることを知っている。 梓沙は木畑を巻き込みたくないと考えているため計画の全容を知らないものの、その計画を推測して陰ながら成功に導いていくのが木畑の使命だ。 たとえ友人たちを裏切ることになるとしても。 過去については下記前日譚を参照のこと。 |
秘密の技能:ナビゲート(凶)[50] 幼いころ加賀池村を遊び歩いた記憶から、危険な場所は熟知している。 通常のナビゲートロールと併用することで同行者に災害をもたらす。 |
前日譚 |
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山に囲まれた盆地にある加賀池村の天気はうつろいやすく、 いつだって雨が畦道を濡らしていた記憶しかない。 正直に言えば、生まれ故郷の土を二度と踏む気はなかった。 あそこにはわずかな優しい思い出と、それを塗りつぶすような悔恨がまみれているんだ。 御数木 梓沙(みかずき あずさ)は家が隣の幼馴染みだった。 彼女には病弱な妹がいたが、ずっと隣町の病院に入院していたから 俺はほとんど顔を見たことがない。今となっては名前さえおぼろげだ。 両親は妹にかかりきり。だから彼女はいつもひとりぼっちだった。 二人きりの時間、互いに親にかまってもらえない寂しさを埋めるように、 長靴を履き、傘を差して、遅くまで狭い村の中を遊び歩いた。 心地よい時間だった。俺は梓沙が好きだった。 加賀池村の美しい想い出は、ここまででおしまいだ。 |
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大学では友人ができた。有田は多趣味な男で、俺をいろんな遊びに誘ってくれた。サークルを薦めてくれたのも有田だ。苦手だった人付き合いも苦でなくなり、俺はようやく心から笑うことができていた。 あの事件を忘れて、楽しく生きられるんじゃないかと思っていた。
半年前にサークルの交流会で出会ったとき、一目でそれが梓沙だとわかった。 向こうもそれは同じのようだったが、一瞬だけとても悲しそうな顔をして、初対面のように名乗る。 名前は御数木梓沙。間違いなく彼女なのに、なぜ? 「タロウくん、できたらさ……このサークルの人に、私とのことは秘密にしておいてほしいんだ。加賀池村のことも、ぜんぶ。誰にも話さないで」 会場から離れた誰もいない場所で。彼女はまた、さっきと同じ顔をしている。 「え……どうして?」 「タロウくん、すごく楽しそうだったね。友達もかわいい後輩もいて。心から笑ってた。本当に、本当に良かったと思う。あんなことに巻き込んでしまったのに、今タロウくんが幸せそうにしていてくれることがうれしい。本当によかった……」 破顔して、泣き始める梓沙に困惑する。 なだめる言葉を探しても本心しか出てこなかったが、今はそれが一番いいと思った。 「有田たちのこと?いい奴らだよ。きっと梓沙とも気が合うと思う。俺も最近やっと、生きるのが楽しくなってきたんだ。また遊ぼう、子供の頃みたいに……」 「私は!!」
言葉を遮って怒鳴る。さっきまで、泣き笑いしていた女の子とは思えない。 「――私はひとりだった!あの夜からずっと!母さんが消えてからずっと!ずっと、ずっとずっと、取り戻すことを願ってきた!だから……!」 やめてくれ。こんな顔、見たくなかった。俺の綺麗だった思い出がつらい現実となって蘇ってくる。 「……オロガミって覚えてるよね。あの村の儀式を。あの夜、母さんはオロガミで消えてしまったんだ。私はもう一度あれをやって、むこうにいってしまった母さんを取り戻す。そのために……人が必要なんだ。人柱が。私はそれを見つけるために、このサークルに入ってきた」 彼女の目はもう乾いていた。その瞳には鬼が宿っている。 人柱というのは、間違いなく犠牲のことだ。あの夜母親が消えたように。 儀式の全容は分からないが、彼女は人を犠牲にしようとしているんだ。 「タロウくん。私のしようとしていることは決して許されないことだから、あなたには関わってほしくない。だけど、絶対に邪魔だけはしないで。タロウくんだけは人柱にしたくない」 目の前の女の子を怪物にしてしまったのは俺だ。 俺はなにもできなかったのに、俺だけがあの夜のことと彼女のことを忘れて楽しく生きようとしたから、神様がツケを払わせに来たんだ。 物陰のゴミ箱から空き缶が落ちる音がして、二人で振り返る。 「……もう帰ろうか。こんなとこ、誰かに見られたら困るもんね」 空き缶を拾い、ゴミ箱に入れなおす。これは俺の仕事だ。 きみが手を汚すなら、俺も手を汚そう。 雨が降り続けている。俺の運命はもう決まっていた。 |
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